ホイッスラーの美術論 (18)
ホワイトハウス(2)
1877年8月に新しい家の設計をホイッスラーから依頼されたあと、ゴドウィンは約1週間で基本的な案を作成した。それをもとにホイッスラーと相談しながら、9月15日に最初の図面を仕上げた(1)。
ゴドウィンは、ネオゴシックのスタイルをとったノザンプトン・タウン・ホールの設計などで名声を得ていたが、のちに「ホワイトハウス」と呼ばれるようになったこの住宅の設計では、ネオゴシックのスタイルから離れ、革新的なスタイルを追求した。それは、もちろんホイッスラーの要求でもあったのだろう。(2)
外観は、急な勾配をとった緑色のスレート葺きの屋根と装飾を排した白壁を基調とし、簡素なイメージが打ち出された。三階建てであったが、三階の窓は玄関の真上に1ヵ所とられているだけであり、他の部分は屋根で覆われ、正面水平方向から見ると一、ニ階部分の壁面と屋根とがほぼ同面積を占めていた。(3)
1875年に、ゴドウィンは『ビルディング・ニュース・アンド・エンジニアリング・ジャーナル』という雑誌に、「日本の木造建築」と題した論文を寄稿し、その中で、日本建築の大きな特徴として、幾何学的な格子状の構造と急な勾配の屋根をあげている。急な勾配の屋根は、日本の建築を模す意図の現れであったのかもしれない。また、白壁も日本建築の簡素な印象を取り入れたことが考えられる。いずれにしても、この建築では過剰な装飾を排するという意図が追求されていた (4)。
この新しい家を建てるためにホイッスラーが借りようとしていた土地は、チェルシー地区東端のタイト通りにあり、テームズ河の河岸工事に伴なって新規に住宅地として開発された場所であった。河岸工事を行っている首都圏建設委員会がその土地を買収し、住宅を建てる人々に貸していた。ホイッスラーは、1877年10月23日に建設委員会と借地のための契約を交わした。(5)
建設委員会は、その土地に建てられる住宅のデザインを管理しており、建築予定者は設計図を呈示して申請しなければならなかった。ホイッスラーもこの設計図を呈示して申請したが、建設委員会は、屋根が目立ちすぎること、壁面が単調すぎることなどを指摘して、建設を認めなかった。(6)
建設委員会は、ホイッスラーの家の設計はあまりにも革命的であると見なし、赤レンガの外壁の建物が並ぶ街並みの景観にそぐわないと考えたのである。ゴドウィンは、その家のデザインについて建設委員会から、「死んだ家のようだ」と言われたという。(7)
この新しい土地には、多くの家が建てられていたが、そのほとんどは当時流行していたクィーン・アン・リバイバルと呼ばれるスタイルを採用していた。ホイッスラーがピーコックルームでかかわったレイランド邸の改築を任されたリチャード・ノーマン・ショウも、クィーン・アン・リバイバルのデザインによって高い評価を得ていた建築家であった。ゴドウィンも、それまでにいくつかクィーン・アン・リバイバルの家を設計していた。
クィーン・アン・リバイバルの外観は、赤レンガの外壁、テラコッタの装飾物、白色に塗装した窓枠、出窓などを特徴としていた。(8)
建設委員会の拒否によって、ゴドウィンは設計を変えた。当初の白壁はおそらく漆喰による仕上げが考えられていたのだろうが、それが白のレンガに変更された。また、窓は当初、上部にタイルを張る程度の装飾しか施されていなかったが、より重厚な装飾が施され、また壁面は彫刻を埋め込むデザインに変えられた。しかし、この設計も建築委員会には受け入れられなかった。(9)
ホイッスラーは、ゴドウィンに、工事を開始して既成事実を作ってしまった方がよいのではないかと伝えたり、ルイーズ王妃に会ったときに彼女から建設委員会にひとこと言ってもらえないものだろうかと頼んだりもした。しかし、そうした画策や働きかけもうまくはいかなかったようである。(10)
ペネルが書いたホイッスラーの伝記に収載されているホワイトハウスの写真(11)は、売却されて持ち主が変わり、多少改築された後に撮影されたものであるが、それを見ると三階部分と屋根の勾配のとり方は、第1回目と第2回目の図面とは異なり、三階部分も窓を一、ニ階部分とほぼ同じように配置したデザインになっている。結局、急な勾配の屋根は建設委員会に受け入れられなかったのだろう。しかし、装飾を排した簡素さの追求という基調は変わっていない。
Notes
1) Bendix, Deanna Marohn, Diabolical Designs, Paintings, Interiors, and
Exihibitions of James McNeill Whistler, Smithsonian Institution Press,
1995. p.145.
2) ibid., p.146.
3) ibid., p.146-148.
4) ibid., p.145.
5) ibid., p.144.
6) ibid., p.146.
7) ibid.
8) Lever, Jill and John Harris, Illustrated Dictionary of Architecture
800-1914, Faber and Faber, 1993. p.31.
9) Bendix, op.cit., 148.
10) ibid., p.148-149.
11) Pennell, E. R. and J.: The Life of James McNeill Whistler, vol.I ,
William Heinemann, 1908. p.224対向
ホイッスラーの作品を集めたサイト:ARTCYCLOPEDIA
http://www.artcyclopedia.com/artists/whistler_james_mcneill.html
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