No.4 May 1999
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久米民十郎の絵
神奈川県立近代美術館での展示

エズラ・パウンドと交流のあった日本人画家、久米民十郎の作品8点が、5月9日まで神奈川県立近代美術館(写真、鎌倉市)で開催されている「所蔵作品による大正・昭和の美術----岸田劉生から松本竣介まで」展に展示されている。
久米民十郎の作品は、昨年同美術館で開催された「モボ・モガ1910-1935展」で、油彩作品「Off
England」(1918年)が展示された。この作品は、ウィンダム・ルイスとパウンドが主導した1910年代の英国前衛芸術運動、ヴォーティシズムの影響を受けたわが国唯一の作品(1)であるとみられている。今回の展示では、これに加えて新たに発掘された作品7点も展示されている。
金箔に油彩で着色した屏風「駱駝と従者/王妃たち」、絹に着彩した「蝶と女」などは、日本美術の形式と西洋美術の手法を融合させており、モダンな新鮮さを感じさせる。サイズの点でもスケールが大きい作品である。また、Gilbert
Cannan(英国の小説家・劇作家、1884-1955)の詩を印刷した紙に水彩とコンテで男子裸像を重ねて描いたコラージュ作品も展示されている。
久米民十郎についての研究を、美術史の立場から最近大きく進展させ、作品の発掘も行った五十殿利治(筑波大学芸術学系)は、久米民十郎を「新興美術運動の先駆者」(2)と位置付けており、この展示は美術史の空白部分を埋めるものとしても注目される。
久米民十郎は、1893年(明治26年)に東京で生まれ、学習院に学んだ後、1914年にロンドンのセント・ジョンズ・ウッド美術学校に留学した。ロンドンでは、舞踊家の伊藤道郎によってパウンドに紹介され、パウンドが取り組んでいたフェノロサのノートを元にした能の翻訳を助けた。1918年に帰国すると文展や帝展で入賞を果たしたほか、帝国ホテルで作品展を開催するなど、わが国の画壇で活動した。1920年には再び日本を離れてアメリカに渡り、翌年ニューヨーク五番街の画廊で個展を開き、さらにその翌年にはヨーロッパに向けてたち、1922年にはパリに移ってきていたパウンドのアパートなどでも個展を開いた。その後帰国し、1923年に3度目の渡欧をするために横浜に滞在していたときに関東大震災に遭い、30歳の若さで死亡した。(3,4)
その後、久米民十郎は長く忘れられていたが、第2次世界大戦後、パウンドの研究が次第に活発になるなかで、パウンド書簡集(5)や1970年に出版されたNoel Stockの『パウンド伝』(6)に記載されているTami Koumeという日本人画家の名前が、パウンド研究者の間で知られるようになっていた。それが久米民十郎のことであると判明したのはパウンド研究者の角田史郎の研究によってである。1980年代になってからのことであった。その後、五十殿が美術史の立場から研究を進め、画家としての活動の詳細を明らかにし、作品を再発見した。
パウンドとの関連では、パウンドが『キャントウズ』第76篇の中でTami's dreamと呼び、回顧している大作のことが知られている(7)。この作品は、パリのパウンドの自宅で展示されたあと、パウンドによって所蔵され、その後、パウンドの愛人、オルガ・ラッジのヴェニスの家の階段ホールに飾られた。パウンドとオルガ・ラッジの間に生まれたメアリ・ド・ラシュヴィルツも『Discretions』の中で、幼時に目にしていたその絵を回顧している(8)。しかし、第2次世界大戦中、オルガ・ラッジの家が敵国資産としてイタリア政府によって接収され、貸家として使われている間に、この作品は、その家を借りていた画家によってキャンバスとして再利用する目的で裁断され、失われた(9)。その絵がどのようなものであったのかは、パウンドやラシュヴィルツの記述に頼るほかないが、五十殿の研究では、久米の友人、佐藤久二の米国滞在中の写真の背景にこの作品を想像するうえで手がかりとなるような絵が写っているのが発見されている
(10)。
パウンドは、1954年にウィンダム・ルイスに宛てた手紙で、Tami's dreamのサイズはおよそ10x12フィートであり、黄色と黒の色調であったと書いている。オルガ・ラッジの家には、ほかにもう1点、久米が同じ色調で描いた肖像画作品が所蔵されていたが、これもラッジの家が接収されている間に行方がわからなくなった。(11)
久米民十郎の作品がさらに発見されることは、強く期待されていることであるといえるだろう。
引用文献
1)五十殿利治:改訂版・大正期新興美術運動の研究、スカイドア、1998年、85。
2) 五十殿利治:もうひとりの「パウンドの作家」----久米民十郎に関する新資料について、筑波大学芸術年報1994、6。
3) 角田史郎:パウンドと久米民十郎の交友、エズラ・パウンド研究、エズラ・パウンド生誕百年記念論文集(福田陸太郎、安川c編)、山口書店、1986年、11-15。
4) 五十殿利治:改訂版・大正期新興美術運動の研究、82-94
5) Selected Letters of Ezra Pound 1907-1941, ed. by D.D. Paige, Faber and
Faber, 1950, 93, 179, 189, 282, 292.
6) Stock, Noel : The Life of Ezra Pound, Routledge and Kegan Paul, 1970,
186, 247.
7) The Cantos of Ezra Pound, New directions, 1995, 482.
8) de Rachewiltz, Mary : Discretions, A Memoir by Ezra Pound's Daughter,
Faber & Faber, 1971, 22.
9) Pound/Lewis : The Letters of Ezra Pound and Wyndham Lewis(ed. by Timothy
Materer), New Directions, 1985, 279-280
10) 五十殿利治:改訂版・大正期新興美術運動の研究、89.
11) Pound/Lewis :op.cit.
(謝辞:久米民十郎についての研究が最近大きく進んだこと、また、文献、作品の展示場所等について、ご教示下さった研究者の方々にお礼申し上げます)
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