超音波空中戦

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コウモリの超音波によって回避行動をとるクサカゲロウ

  前回、水中のイルカの超音波について考えたので、今回は空中で超音波を利用している生物の生き残り戦略がテーマです。イルカは捕食のために15kHz〜160kHz (10cm〜1cm)のクリックスを使って魚を探しますが、魚の方は受信能力は〜1kHz。魚にはイルカのクリックスは聞こえていないと言うことです。では、空気中でエコーロケーションするコウモリと捕食される昆虫の関係はどうなっているのでしょうか。わたしは、初め、この両者の関係も、イルカと魚の関係の同様に、コウモリの超音波は昆虫には聞こえないのではないかと思っていました。昆虫に聞こえてしまってはコウモリが昆虫を捕まえることが出来ないのではないかと思ったからです。コウモリの超音波12kHz〜200kHz(3cm〜0.1cm)は昆虫には聞こえているのでしょうか?しかし、調べてみると、北大下澤楯夫教授の「昆虫の音感覚」日本音響学会誌49巻6号413-420(1993)によれば、コウモリの餌となる昆虫は、聴感覚器官のある部位こそ一定でないにしろ、コウモリの捕食行動からの回避のために、その聴感覚を超音波の域まで発達させていることが判りました。コウモリの捕食行動に伴う超音波(40kHz〜50kHz)に対して、蝶や蛾、カゲロウの仲間では、回避行動をとるそうです。クサカゲロウはコウモリの発生するゆっくりした超音波のパルスでは回転飛行やジグザグ飛行で捕食からの回避が、速い超音波のパルスの前では翅を広げて止まり、次に翅をたたんで真下に落ちるという行動が見られるということです。

コウモリの超音波が聞きたい!

  なるほど、コウモリの超音波を聞いて回避行動をとるクサカゲロウは、生存の確率があがりますから、クサカゲロウが超音波の受信能力を持つことは、至極あたりまえと云えばあたりまえなのです。ドーキンスの利己的遺伝子の生き残り戦略としてとても、面白い例であると思いました。文献を読んだからには、自分でも、カゲロウが、超音波を聞いて、失神するところが見てみたいと思うのが人情ですが、そこは、可聴音域帯に生きるわたしと超音波の世界に生きているコウモリや昆虫とでは隔たりありすぎます。コウモリの超音波そのものもが、わたしには全く無感覚なのです。しかし、イルカは水族館へでも行かなければ見られませんが、昆虫は家の廻りでたくさん鳴いていますし、コウモリもお不動池あたりまで行けば生息しているのではないかと思われます。どうにかして、超音波を可聴音域に変換して聞く方法はないものでしょうか。

バットディテクターの開発依頼

そこで、わたしは、7月のある日がーさん工房に次のような装置を発注しました。

●超音波(40kHzくらい)を可聴音域に変換する装置(超音波検出機:バットディテクター)

 超音波を実感として体感するため。

●超音波(40kHzくらい)を発生させる装置(超音波発信機:キャットトランスミッター)

 超音波の受信能力のある動物に信号を送るため。

●可聴音域の音声を超音波に、超音波領域の鳴き声を可聴音域に変換する装置

 (超音波送受信機:イルカトランシーバー)

 人間の声をイルカ音域にイルカの声を可聴領域にしてイルカと会話するため。

がーさんの工房では、まず、インターネットでの調査を開始しました。すると、コウモリウォチングの分野があり、既に世の中には「バットディテクター」なるコウモリ検知器の回路図まで紹介されておりました。

コウモリのページ

http://www.nara-edu.ac.jp/ECNE/bat/index.htm

バットディテクターのページ

http://tomonaga.u-gakugei.ac.jp/edu/bio/bat/index.htm

回路図まであれば、電子工作はがーさんのお手のもの、1週間も経たぬうちにバットディテクター試作1号機が出来上がり、納品されました。(部品代:センサー部\1,000-/その他\1,000-/開発費に肉まん1コ)

 

 がーさんの工房から納品されたバットディテクター試作1号機            1号機のフタを開けるとこんなです 

 

           中身の拡大図                          構想を練ったミックスシーズのホワイトボード

バットディテクターを通して聴く超音波の世界

 実際に可聴音域に変換される超音波というシロモノは意外なほどリアルな感じでした。擦れる音は可聴音域の擦れる音とそっくりでしたし、水も流れる音も、可聴音域の水の音に似ていました。虫の声はどちらかというと雑音に近い感じで聞こえました。40kHzを可聴音域に変換するバットディテクター1号機で聞いた範囲では、家の中はテレビなどの電化製品がついていると壁で反射するせいか、ザワザワしていました。外は、昼間は意外と静かでしたが、夜中から朝方がたぶん超音波を発する虫の声で、特に草むらがにぎやかでした。

試作1号機で聴いた音

家の中

  PC本体:ジーーー

  モニタ:ピーーー

  テレビ:ピーーー

  衣服のこすれる音:カサカサ、ガサガサ

  足音:カサカサ

家の外

  自転車:フリーホールの時:カタカタカタカタ

  自動車のブレーキ:キュ〜イ

  ビニールの紙袋のこすれる音:カサカサ、ガサガサ

自然の音

  虫の声

   モールス虫?(正体不明、可聴音は出さずモールス信号の様にテッテッテッ、テッテッテッと発する)

   キリギリス:ジャリジャリジャリジャリうるさいモーターの様

   アブラゼミ:ジー

   たぶんコウモリ:パリプリパリプリ

   草のこすれ合わさる音:カサカサカサカサ

進化の戦略となったであろう超音波の受信能力

 衣擦れ音や、足音、何でも物がこすれ合う音、草むらを渡る風の超音波が可聴音域の音に較べ、はっきりしていました。番犬が夜更けの侵入者に気が付いて吠え立てるのは、はっきりと、侵入者の立てる音が聞こえているからと云うことが実感できました。また猫が相手に気が付かれない様に忍び寄って小動物襲う時、猫は超音波の域までの音をたてない様に注意して忍び寄っているからでしょう。いわゆる「擦れ合う音」に超音波領域の音が多く含まれているとすれば、捕食される側は捕食する側を察知するため、また捕食する側は捕食される側に察知されないで忍び寄るため、それぞれが超音波の領域まで受信能力を高めていったと思われます。生き残るために、超音波戦略は確かに有効に働いたと思われます。

超音波を使った呼びかけ

 よく、犬や猫を呼ぶ時、舌打ちをしますが、舌打ちの音にはやはりはっきりと超音波領域の音が含まれていました。また、拍手にも超音波領域の音が含まれていました。とすると魚に超音波は聞こえないと記述しましたが、手を打って呼び寄せることの出来る鯉には、もしかしたら超音波が聞こえているのかも知れません。少し、飛躍した考え方をすれば、神社で柏手を打つのは、人間が発することの出来る幅広い周波数の音で、神様に自分が祈りの場に居ることを知らせようとしているためではなかろうか?八百万の神様の気を引くには何とも旨い方法を考えた物だと思います。と言うことで、がーさんのバットディテクターで、超音波に溢れる世の中に接し、そこには人間の知らない世界があるのだということを実感した次第です。(たぶん、聞こえないことを前提にオシロスコープで超音波を見るより、超音波を実感できたのではないかと思います。)

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e-mail : mixseeds@seaple.icc.ne.jp

平成10年8月2日  ペ−ジ制作:たぬ