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釜利谷鳶の餌付け
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その日は、春も近い3月の土曜日。暖かくなってきたので、
洗濯物入れのバスケットにお盆を乗せ、パイプ椅子の小さいのに腰掛けて、
夫婦二人でベランダで朝食を食べている時のことでした。
見上げると頭上高く、点の様な鳶が何羽か上昇気流に乗って旋回しているのが
見えました。夫が、パンを囓りながら、
「鳶も半年くらいかけると餌付け出来るみたいだよ」
と言うので、
「ふう〜ん。あんなに高いところにいるのに、どうやって餌付けするの」
と尋ねると、
「鳶は目がいいから、あんな上空にいても地上にいる野ネズミとかが
見えるんだって、餌を気長に降り続けると、だんだん近寄ってくるんだよ。」
というので、
「で、鳶って何食べるの」
「小鳥とかネズミとか、食べるんじゃないの、
団伊玖磨は半年かけて鰯を手から食べるようにしたんだって」
「そう言えば、この前、三浦へ行った時、どこかのおばさんが
バス停前の公園で鳶にパン投げてたねぇ」
「うん、雑食だからパンも食べるよ」
それを聞いて、わたしは、鳶に向かってパンを振ったのだった。
「おおぃ! おおぃ! おおぃ!」
「たぬち、そんな急には無理だよ、半年かかるよ。」
「う〜ん。そうよね」
そう言って、私たちは、また、お盆に向かって朝食を続けたのでした。
ところがふと気が付くと、鳶がさっきより、低く飛んでいるではありませんか、
「ねえ、鳶が低く飛んでいない?」
「う〜ん。見てるんだね!」
「きっと、上の方から、わたしたちが何か食べてるなぁって見てるんだぁ!」
わたしは、鳶の高度がさらに低くなってきたのでまた、パンを振り回して
鳶を呼びました。
「おおぃ! おおぃ! おおぃ! おおぃ!」
そうするとどうでしょう、鳶たちはどんどん低空を飛び始め、
あきらかに近寄って来るではありませんか!
私はもう、興奮して、
「おおぃ!おおぃ!」
とパンをむしって放り投げ始めました。
すると、鳶はいよいよ、低空になり、辺りの屋根よりちょっと高い位の
高さまで降りてきたのです。
「来たよ、ガーさん!来たよ!来たよ!」
「来た!来た!」
わたしはもう夢中でパンをむしって放り投げましたが、パンが軽いのと、
腕の力がないので、とうてい、鳶の高さまで上がりません。
「ガーが投げてよ」
と言ってパンを渡すと、
夫はパンを丸めこちらに向かって来る鳶の前方へパンを放り投げました。
ビューーーッ!
と音がするように鳶が家のベランダ上空を突っ切ってパンを掴むとグゥ〜ンと
旋回して上空へ上がって行きました。
パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!
わたしたちは彼の空中でのキャッチに思わず拍手喝采したのでした。
「ねぇ、ネズミを食べるんじゃ、パンじゃ物足りないんじゃない」
「冷蔵庫に何かある?」
「わたし、ソーセージ持ってくる!」
私は階段を駆け下りると台所の冷蔵庫から、ウインナーソーセージを1本、
取り出し、ナイフを手にまた階段を駆け上がりました。
「まだ、いる?」
「いるよ!」
鳶は、家の少し上空を旋回していました。
夫がソーセージを受け取って半分に切りました。わたしはソーセージの1切れ
を持って(鳶によく見えるようにソーセージの端っこを持って)振りました。
「来るよ!来るよ!たぬち!」
鳶が西側からベランダの南側に向かって飛んで来ます。
「ガーさん投げて!、ガーさん投げて!」
「えぃ!」
ビューーーッ!
ソーセージはパンより高く上がり、われらが鳶のトンちゃんは左足で
ソーセージの半分をみごとキャッチしたのでした。
「取った!取った!」
パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!
わたしたちはベランダで、小躍りして喜びました。
鳶はまた旋回して戻って来ます。
「また、来た!」
「これも投げて!
ガーさん頑張って!」
「それッ!」
ビューーーッ!
またも、成功!今度は右足でキャッチして両足のふさがった鳶は上空へと
昇って行きます。
パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!
もう一度、冷蔵庫へ走ろうかとわたしは思ったのですが、
「腕が痛いなぁ。今日はもうだめぁ」
昨日、会社のボーリング大会だった夫が、右腕をさすりながら言いました。
「うん、もういいよ、また来週のお休みにやろう」
「ソーセージやったから、味をしめて、また来るよ。」
「ここらの鳶は、人なつこいね」
「誰か、餌付けしている人がいるのかもしれないなぁ」
「野生の鳶というより、野良鳶なのかもね。この辺の野良猫も人なつこいから」
「お不動池あたりで、餌やってるんじゃないかぁ」
「それにしても、目がいいのね。きっとわたしたちがご飯食べてるのを
見てたのね、犬が、飼い主にテーブルで何かくれってねだるみたいに、
何かもらえないか見てたのかもね」
「ベランダで食べてると、よく上で旋回してたから、
きっと見てたのかもしれないね」
「何羽いたの」
「何羽かいたけど、ソーセージを取ったのは1羽だったよ。
カラスよりちょっと大きいくらいの鳶だから、まだ若い鳶だね。
若い方が好奇心があるんだね」
「来週もまた来るよね」
「来るよ。でも腕が痛くなるなぁ。少しキャッチボールで練習しようか」
「しよう!しよう!それかパチンコでもいいんじゃない?」
「そうだね、今度、東急ハンズで見てこよう!」
(そんなこんなで、この日は、鳶の話題で持ちきりだったのでした。もし貴方さまが釜利谷の高台に住んでいらっしゃる方でしたら、是非一度、ベランダから鳶の餌付けを楽しんでごらんになりませんか?)
e-mail : mixseeds@seaple.icc.ne.jp
平成9年5月吉日 ペ−ジ制作:たぬ