告  知

トップページへ  工房の屋根裏へ

  ところが、突然、その日はやってきました。2週間の内科の検診が終わって、主治医が内科のT先生から外科のS先生に替わりました。わたしたちはS先生にもいろいろとお願いしなければと思っていた矢先、S先生が父にガンであることを告げてしまったのです。

「直腸に進行ガン、下行結腸に早期ガン、肝臓に転移した早期ガン。胃に原発性の早期ガンもある。家族も知っているはずだ」

その時、父がどんな気持ちだったかを考えると、今でも辛くなります。

そして、何も知らずに見舞いに行った母を父は問いつめました。母は泣きながら

「K病院でガンだと云われた時,お父さんに言ったらホントにお父さん気を落としてしまいそうだったから,F先生にお願いして,良性の腫瘍だと言って貰ったの」

と言ったそうです。良性の腫瘍で手術すれば治ると信じていた父。ガンではあっても、手術さえすれば良くなると信じていた母。いつかは伝えなければと思っていましたが、こんな形で進行ガンを伝えることになって、なんて可哀想な伝え方をしてしまったのだろうと思わずにはいられません。当時も今も、わたしは自分自身がガンになったとしたら、そのことを知って、人生を締めくくりたいと思いますし、家族がガンになった場合、基本的には本人に伝え、充実した人生の締めくくりをさせてあげたいと思っています。が、ガンの告知は人によって、またその状況によって、受け止め方がたいそう異なり、ソフトランディングするためにはタイミングを測る必要があると思うのです。タイミングを計っていた矢先の告知にわたしたちは戸惑いました。

□□□□□  □□□□□  □□□□□

★ガンの告知には二つの段階があります。

 一つは「ガンであることを告げること」

 もう一つは「残りの期間を告げること」

 父の場合、最初の告知はこの様にしてなされました。父は、この時ショックを受け、家族を恨んだりもしたようでしたが、結局、ガンセンターの同室の患者さんが皆、同じ運命の人たちで、手術をして元気になっていたこともあって、 ガンを受け入れることが出来たようでした。

そして、次に悩むのが、残りの期間をどの様に伝えるかです。この期間の告知についても、わたしは失敗してしまいました。ガンセンターのカウンセラーに聞いてみると,

「例え、90才のおじいちゃんでも、ガンで後1年と云われれば、落ち込むでしょう。おじいちゃんも、小さい子ども年には関係なく、後どれくらいしか生きられないといったら,誰だって落ち込むから,言わない方がいいんです」

と言われ,ついに,父には,期間の話をしないうちに,意識障害が出て話す機会を逸してしまいました。その後,ホスピスの婦長さんから,

「もう長いことないんじゃないかと思う」と云われたら

「どうしてそう思うの?もし,そうだったら,貴方は何がしたいの」

と,ガン患者が薄々気づいていることには否定しないで,期限のあることをそれとなく伝え、何がやりたいかを、何を希望しているのかをじっくり聞いてあげ引き出してあげることが大切だと。そして, それが実行可能なことなら実現をに向けて皆でバックアップしてあげることが大切だとお聞きし、目から鱗が取れたように思いました。人生に期限があるなら,人生の価値を量から質へ変えていくことが一つの道ではないかと思います。結局、父には、うまく残されたその期間を伝えてやることが出来ず、手術が終わってしばらく、一見健康が戻った様に、見えたときにも旅行もさせてあげられませんでした。

 わたしたちに出来ることは、ガンになった家族の辛さをそのまま一緒に引き受けて共感してあげることも大切なことだと思います。でも、共感してあげるだけでは、死に行く人に満足をあげることは出来ません。死に行く人にしてあげられるのは、残りの人生を如何に充実した中身の濃い物してあげることではないかと思います。そうすれば、彼(彼女)は短くても充実した日々に満足することができるかもしれません。そして、貴方自身にも辛い思い出だけでなく。一緒に過ごした充実した日々と言う思い出が出来るのではないかと思うのですが如何でしょう。

トップページへ  工房の屋根裏へ

e-mail : mixseeds@seaple.icc.ne.jp         

平成10年4月26日  ペ−ジ制作:たぬ