井川香四郎「おっとり聖四郎事件控」シリーズ(既刊3冊、廣済堂文庫)

※書評は2巻まで。
備前宝楽流という派の庖丁人(料理人)、乾聖四郎(いぬい・せいしろう)が、事件に巻き込まれて居合いの剣を振るったり、人々に料理を振舞ったりする話です(端折り過ぎ)。
ただの侍が主人公ではないという点に惹かれて手に取りました。
普通の活劇時代小説の人情味を料理で補っている印象を受けました。
料理で人々の心を癒す類の演出が如何にもな感じで、目新しさは特になし。
いや、料理は旨そうですが(何
個人的所感を言えば、「B級では決してないが、A級とも言い難い」という微妙な位置に属する作品です。
第1巻及び第2巻のように、タイトルだけでは内容がまったく把握できない、というのも原因の一つか。
……つーかタイトル内容と関係ないし。むしろ無意味。
第3巻「あやめ咲く」以降は改めているようですが。
ちなみに、シリーズタイトルは3巻になってから付きました。

第1巻「飛蝶幻殺剣」(2003)
タイトルのような演出とか秘剣とかはありません。
上記リンクの粗筋に誤りはないので、今回は補足はなし。
舞台は1803年? 徳川家斉と松平定信の時代です。

内容について
「容赦の無い展開、GJ」って感じです。
結構女性がひどい目に遭うので、そういうのが嫌いな人は避けたほうが無難。
エロスは邪魔にならない程度にあり。無くてもいい程度って気もしますが……。

文章表現について
殺陣シーンの迫力は、並程度。シャウトが変と言えば変ですが。
逸般的な例で表現するなら、「デラゥォェア!」みたいな感じです。
……回りくどいか。
「ウッ、キャア!」とか「ウオリャァ!」とかが気に入らなかっただけです。
絹を裂くような叫び声、とか、裂帛の気合、で補えそうなのに……。
それ以外で疑問に思うような文章表現はありません。

展開について
気になったのは、ラストの大立ち回りですかねぃ。やり過ぎのような……。
料理対決だけで充分というか、蛇足なイメージ。
……と言うか、あれだけやって何の沙汰も無く帰れるとは思えないのですが。

南部津軽の抗争や埋蔵金等の伝奇的な筋を盛り込んでいるし、剣戟シーンも不可という程ではないので、一応おすすめしておきます。
やや勢いに欠けるのが難なのと、上記の理由と併せて個人的評価はそんなに高くないですが。

第2巻「飛燕斬忍剣」(2004)
タイトルのような(ry
連作中編です。
短くすっきりまとまっていて、薬種・札差・牢屋敷など勉強になる話も多く、個人的に前巻より好きです。
でも、やっぱりタイトルはちゃんと決めてほしい……。

◆百万人の命
粗筋は上記リンクを参照のこと。
……ですが、粗筋みたいに主人公の料理を食べた人だけが被害者ではないので、その辺誤解無きよう。
まぁ、よくある筋とよくあるオチですが、そこに工夫を凝らして長編まで伸ばすのが作家の腕の見せ所ではねーですかのぅ。
パニック小説として楽しめなくもないです。
ラスト近くの悪人の命乞いセリフが笑えます。何と言うか、典型的過ぎて……。
あまりに笑えるので、抜粋(ややネタバレっぽいので反転)。
待ってくれ。金ならある。おまえたちだって、大金を手に入れれば、そのよさが分かる。正義だのなんだの青臭いことを言うことがバカバカしくなる。世の中、金次第じゃないか。事実、金のある奴だけが病になっても助かる。な、お互い大人になろうじゃないか
……汎用性高いですのぅ。
◆一粒の銀
青物市場で、知人の八百屋の主人“政吉”が町方同心に追われる男を匿う、その現場に居合わせた聖四郎。
知り合い同士かと思ったが、男は政吉を知らないと言い、さも迷惑そうな態度を見せる。
盗みの嫌疑をかけられ追われる男を、政吉は何故庇うのか……?
結構泣かせる話なのでおすすめです。
◆かんざし閻魔秘帖
いきなり大仰なタイトルですな。
タイトルで内容バレバレな感じがしますが気にしない方向で。
ある日、聖四郎は謎の刺客に襲われ手傷を負った。
出張先の料亭で偶然耳にした、旗本風の侍と札差“相模屋”の主人との不穏な会話に思考を巡らせる聖四郎だが……。
そんな中、彼の前に現れた美貌の女髪結い。
彼女の独特の雰囲気に強く惹かれる聖四郎だが、彼女の正体は――。
……という筋になっています。
うん。やっぱり料理旨そうです(何
◆情けの露
悪所での阿片蔓延という風評の中、馴染みの庖丁鍛冶の仕事場を訪れた聖四郎。
そこで彼は、呉服商を営むかつての兄弟弟子“貞吉”と出会う。
繁盛の陰に何かがあるという噂を聖四郎が心配していた矢先、貞吉は町方に捕縛されてしまう。
それまで貞吉の様子を窺っていた聖四郎も罠に落ちて、牢屋敷に送られてしまう。
……という筋。
全話に一貫して言えることですが、性格捻じ曲がった人を書くのがうまいですな。
疑り深さとか。

reviewed by平沼兵庫