藤井邦夫「日暮左近事件帖」シリーズ(既刊3冊、廣済堂文庫)
記憶喪失の青年が主人公の時代小説シリーズ。全巻、長編です。
毎回カバーイラストレーターが違うというのがどうも……。
でも、個人的に結構好きな作品です。刊行スピードが遅いのが難ですが……。
但し、舞台が西暦何年なのかを突き止めようとすると矛盾が発生するのが難。
つー訳で、展開だけ楽しんでください(えー
第1巻「陽炎斬刃剣」(2002)
公事宿<巴屋>主人の彦兵衛は、川を流れる小舟の中で喪神していた男を保護する。
後頭部に傷を負った男は、過去の一切を失っていた。己の名前も、生国も……。
蜩の鳴き盛る頃に現れ、「左近」と記された紙片を手に握っていたため、彦兵衛は男を「日暮左近」と名付ける。
……結構適当な理由で命名している気がしますねぃ。しかも、名前の所為で命を狙われたり。
更に書けば、彦兵衛さん左近に己の正体を気付かせるために、結構強引な施しをしている気が……。
強そうだけど戦闘力未知数の人間に、無頼浪人をけしかけるかな……。結果的に強さは証明されたわけですが。
で、左近の強さを見込んだ彦兵衛は、彼を自らの公事宿の出入吟味人として雇うことに。
公事宿というのは、民事訴訟を持ち込んできた原告の世話と裁判の仲介をする機関のこと……だったと思う。
作品内でも触れられてますので、そちらを参照してください。
この他に公事宿が登場する作品は澤田ふじ子さんの幻冬舎刊のシリーズがありますね。
人物について
◆日暮左近(主人公)
上記のいきさつの通り、本名は別にあります。本名と正体の判明は第2巻。
常人離れした優れた運動能力を持つ。クールでハードボイルドな雰囲気を漂わせた男。
時折脳裏に響く己の本能、失った記憶の囁きが不気味でいい感じ。
この囁きのため、得体の知れない狂気に陥ったり、自分の正体について思い悩むことも……。
そんな彼ですが、記憶は失っているものの、結構頭の回転は速いです。
実はシリーズを通して半裸が多い(何
戦闘用の必殺技はひとつだけですが、地味にかっこいいので許す。
状況は限られますが、別の必殺技の廃人化攻撃がめちゃ怖えぇ。回避不可能だし。
Final Fantasy 5で譬えれば「サークル」(存在抹消。戦闘から離脱し回復が不可能)並に恐ろしい技かと。
……マイナースマソです。
◆彦兵衛
公事宿巴屋の主人。独身。
性格は温和で、冷静沈着。左近に知恵を貸してくれる、頼れる人物。
◆おりん
彦兵衛の姪っ子。
若くして後家になったため、巴屋に居候している。
あまりにも情けない理由で旦那が死んでしまったために、すでに祝言のことは考えていない。
公事宿巴屋のお手伝いさんとして定着。
密かに左近に思いを寄せるが……。
巴屋周辺に情報網を巡らし、被告からの逆恨みによる放火や襲撃を回避するという機転の利く娘。
◆房吉
公事宿巴屋の下代(番頭)。
一本気で思い詰めやすい性格。
ハードな過去を背負う男だが、何故かシリーズを通じて異常に女運がいい(笑)。
彦兵衛の右腕を務めるだけあって知恵も廻り、行動力もある。
胆力もあり、危険な任務も淡々とこなすタフな男。
◆氷室精一郎
口入屋萬屋に雇われている凄腕の浪人。左近と敵対する人物。
雇い主の萬屋徳右衛門を陰で嘲っている、喰えない男。
こういう人物造詣、好きです。
◆謎の女刺客(陽炎)
左近の過去を知る、唯一の人物。
何度も左近の命を狙うが、逡巡も見られる。
キレると怖い女の子。
◆渥美千之助&佐々木兵馬
中野碩翁が組織した見聞組の士。
ちょっとバカ入っている千之助が好きだ。可哀想な人ですが。
◆神尾兄妹
(;´Д`)ハァハァ
内容について
上記リンクの粗筋を補足します。
江戸の秋、公事宿巴屋に出入(民事)訴訟が持ち込まれた。
依頼人の話によると、亡き父が経営していた小間物屋の売買証文を口入屋に騙し取られたのだという。
その口入屋は何かと噂のある暗黒街の顔役で、非常に厄介な存在であった。
小間物屋のあった土地には口入屋萬屋の雇った不気味な浪人が住んでいて、近づくこともできないという。
巴屋の下代の房吉が小間物屋を調査したところ、周辺の地面にいくつも掘り返されたような跡があった。
地面の穴に不審を覚え左近らが調べてみると、その土地は約160年前、謀叛人由比正雪が居を構えていた土地だという。
由比正雪の軍資金が眠っていると睨んだ巴屋一党は、萬屋徳右衛門一味を出し抜くために、埋蔵金捜索に乗り出す。
だが萬屋の背後には妖怪・中野碩翁の影が……。
……という感じになっています。
うむ。
中野碩翁キターッ!!
……って感じです(マテ
中野清茂が隠居して碩翁を名乗っているので舞台は1830年以降と推定できますが、1811年〜1814年としか考えられないような記述もあります。えーと、何だその、まぁ細かいことは気にすん奈ってことで(汗
唐突に旅立ったりするから吃驚するかも。
構成的に江戸編、道中編、駿府編、江戸編2……に分けられます。
晩夏〜冬ということで期間も長めです。
道中編から一気に面白くなります。無くてもいいようなエピソードもありますが(志乃とか)。
204〜206頁の転居の下りがややこしいかもしれません。彦兵衛さんは転居先で待っていた、ということで。
謎解きについて
埋蔵金といえば暗号文、ということで暗号ミステリ要素があります。
史跡や神社仏閣に詳しい人なら一つは楽勝でしょう。都民なら分かる人もいるはず。
でも、横2×縦5の10文字だから読み方も相当限られると思うんだが。
つまり、気付いてしまえばどうということもない暗号文です。
逆に横5×縦2だったら難しかったかもしれません。
解読してからも長いですが……。
文章表現等について
一人称「わし」を「儂」と漢字変換しています。好みが分かれる表現だと思います。
バランスの良いエロスとバイオレンスが好印象。殺陣シーンの迫力も充分。
月夜のvs氷室、朝靄のvs佐々木が燃え燃え。
また、4章4節の碩翁邸のシーンは圧巻。
誉め過ぎかもしれないが、殺陣シーンなら池波や柴錬に匹敵するのでは。
細かい指摘
・『違う……』(※疑問系セリフ)→『違う……?』
誤植もいくつかありますが、展開に影響を及ぼすものはありません。
あとは、154頁の「駿府勤番組頭〜」の繰り返しが少し鬱陶しいくらいか。
総括
かなり面白いので読めれ(えー
藤原ヨウコウのカバーイラストが良し。
第2巻「無明暗殺剣」(2003)
この巻では目次がカコイイですな。
プロローグ、銀の香炉、赤い蜘蛛、青い死煙、黒の殺戮、白い記憶、エピローグ……となっています
こういうこだわり、大好きです(何
でも、カバーイラストは前巻の方が好きです。
つーか無明刀、胴田貫だったのですか。
「名もない酔っ払いの刀鍛冶が作った刀」に矛盾しそうですが、<胴田貫派>ということでご勘弁を。
人物について
◆服部仁左衛門
誇り高き忍びの頭領。
激しやすい性格で、挑発に弱い(何
◆土方縫殿助
沼津藩の家老。冷徹で狡猾な策士。
その奸智は忍びをも凌駕する。
内容について
また例によって粗筋を補足しておきます。
公事宿巴屋に鍛金師が公事訴訟を持ってきた。小間物屋の依頼で銀の香炉を造ったが、後金を貰えないと言う。
ところが香炉には秘密があり、小間物屋と鍛金師はそれぞれ浪人と忍びに殺されてしまう。
香炉を注文した献残屋の<蓬莱堂>を調査したところ、主人の周辺に小間物屋を斬った浪人の姿があった。
尾行の結果、浪人は「相良」と呼ばれており、武家の用心棒を勤めていることがわかった。
その相良と数人の武士が駕籠を警護していたところ、これを襲う者があった。
左近は襲撃者を秩父忍びの陽炎と見抜き様子を見るが、陽炎は突如現れた忍び集団に追い立てられ窮地に陥ってしまう。
集団に斬り込み陽炎を逃がした左近は、狙われた駕籠の武士を老中水野忠成の側近・土方縫殿助と知る。
銀の香炉と蓬莱堂、浪人相良と土方縫殿助、土方を狙う陽炎、そして忍び集団――。
事件の根の深さに慄然とする巴屋だが、依頼人を護ることができなかった手前、引き下がることはできない。
彦兵衛と房吉、左近は真相に向けて決死の戦いを挑む。
やがて、行方不明になっていた鍛金師の女房から香炉の仕掛けが明かされる。
蓬莱堂は香炉を利用して何者か貴人を暗殺しようとしている。
そして老中水野忠成及び側近土方縫殿助の暗殺を命じる者がいる。
浪人相良と蓬莱堂は水野と土方を護っている。
実に、貴人同士の暗殺合戦であった。
己の過去を知る陽炎を援けるため、左近はより深く事件に肩入れするが……。
……という感じになっております。
ネタバレ過ぎましたかのぅ。
いよいよ主人公の正体と過去が明かされます。
前巻ラストにちょっとした伏線がありますね。
<過去>と<現在>で性格と行動パターンが正反対であるのが興味深い。当たり前といえば当たり前ですが。
左近の<過去>と<現在>の間で揺れる陽炎の心情が見所かと。
展開から、舞台は西暦1829年のようです。これは確定かと。
つーか確定してしまうと前巻から最低でも1年遡ってしまうのですが(汗
この巻では、忍び同士のバトルが熱いです。
手裏剣はもちろん、短弩、鋼投網、鋼手甲、隠剣、千鳥鉄など、武器防具も多彩。
仁左衛門vs月山の金剛、燃え燃え(またそれか
奇襲や策略もあり、目が離せない展開になっています。
一番の見所は2章2節の沼津藩下屋敷のシーンですかね。
忍びが護る屋敷に斬り込み掛けて、一直線に蹂躙ってのが堪らねぇ。
レーダーに建物の構造と侵入者と軌道が表示されているイメージが(笑
左近さんの携えていた印籠型手榴弾も奇抜でいい感じ。
<秩父幻斎>と<羽黒の仏>、忍びの棟梁同士の腹の探り合いも面白い。
文章表現について
やや粗いシーンがある気がします。
展開の良さと殺陣シーンの迫力が健在なのが救いですが。
細かいツッコミ
後半に『日暮左近にとって初めて着る忍び装束だ。』というフレーズがありますが、中盤で何度も着ていた気が……。
前回の着用も含めて『初めて』なのでしょうが……。
第3巻「愛染夢想剣」(2004)
タイトル通り、エロティシズムとか情愛とかにこだわった作品かと。
第1巻に「陽炎」、第2巻に「無明」、第3巻に「夢想」ですか。
タイトルは今回でネタ切れかもしれませんのぅ(えー
人物について
◆青山久蔵
北町奉行所の吟味方与力。<剃刀>と仇名される切れ者。
巴屋と左近を事件に巻き込んだ張本人。
古い慣習など物ともしない、剛毅な部分を持ち合わせる。
◆柊右京介
青い瞳を持つ混血武士。
瞳と慈愛に満ちた声で相手の闘争心を萎えさせる、催眠に近い能力を持つ。
◆錣半兵衛
柊右京介を「裏切者」と呼び、争う男。普段は医師の扮装をしている。
何者かの密命で動いているようだが……?
◆弁天の卯之吉
板橋付近を取り仕切る岡っ引き。
左近の実力を一瞬で見抜いた、端倪すべからざる男。
内容について
上記リンクの粗筋を少しだけ補足。
錺職人が公事訴訟を持ってくるが、交渉相手で被告にあたる人物を殺害し、現行犯で捕縛される。
素手の一撃で相手の頸の骨を折った職人を、北町奉行所与力の青山は只者でないと看過する。
職人の懐の手控帖には、4人の女の名前と所在、『目黒白金村神無月生まれ』という文字、直径2寸と記された手鏡の絵があった。
手鏡の絵には観音像とそれを取り囲む光背が彫り込まれている様子が描かれていた。
青山は職人を尋問するが、手控帖については口を割らない。
事件と手控帖の背後に不穏な勢力の蠢きを予感した青山は、巴屋と左近を利用して事態収拾を目論む。
公事宿巴屋の出入者吟味人・日暮左近は彦兵衛の頼みに応じ、4人の女の捜索にあたる。
目黒白金村神無月生まれ、裏に観音の彫られた手鏡を持つ女。その秘密とは?
やがて彼女達を巡って争う2つの勢力が浮上し、秘密を探る左近にも刺客が……。
……という感じの話です。
前作ほど深刻な内容ではないですが、スケールと殺陣シーンの迫力は健在。
水中戦など、殺陣シーンの趣向も凝っている。
けど、思わせぶりに登場した敵が一瞬で死ぬのは雑かと。黒木源十郎さんのことですが。
舞台は1837年以降と推定できますが……。
……まぁ、話が面白ければいいんだよ。エンターテインメントなんだから。
と、無理に開き直ってみたり。
で。
また廃人化攻撃ですよ。
あれ喰らって立ち直れる人間って……。
謎解きについて
中盤で錣半兵衛の属する勢力が明かされます。
勘のいい人なら、その時点で手鏡の秘密が分かるのではないかと。
文章表現について
雑なシーンがいくつかある気がしますが、展開が補っているので問題ないと思います。
細かいツッコミとか誤植の指摘
・「寄り添うに」→「寄り添うように」
・『いる』(※疑問系台詞)→『いる?』
・「脇差し」→「脇差」
・「誰何」の用法間違い。
・「あいは」→「あるいは」
あと、何度か主人公が一人称を間違えているとか。
疑問系台詞については、一種の癖ですかのぅ。
この巻は誤植が多いかもしれません。
4人なのか5人なのか半ばまで分からず、後で誤植と気付いたり。
編集者のチェックが甘いんでしょうかねぃ。
reviewed by平沼兵庫