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奇跡を体験
6.全てを忘れてください!
実は、私はこの3月末で今の会社を退職し、その後は自分のペースで、ISO9000s QMS関連の
審査と、審査員養成講座の講師、コンサルタントを引き受けながらの次の人生を計画していた。
既に去年の暮れに会社に希望を伝え、後任の人事も内定しており、監査、講師の4月以降の
予定もいくつか決まっていた。
しかし3月末までは、きちんと今の仕事をするつもりであった。
親会社でそれなりに責任ある仕事を任され、今の会社でISO9001取得の推進責任という最後の
一仕事に目途をつけて、気持良く次の段階へと考えていたのだが・・・。
入院の翌朝、目覚めると、誠に恥ずかしい事だが看護婦さんから「夢精をしてますよ」と
教えられれた。
中学生当時以来の珍事であり、看護婦さんから冷やかされたが、私はかって或る本で
「全ての動物は息絶える直前に、種の保存の本能により生殖機能を働かそうとして絶望的な
努力をするものである」というのを読んだ記憶があり、この珍事は私にとっては実に非情で
冷酷な宣告を聞く思いであった。
妻が介護に来てくれたので、助けを借りながら何のためらいも無く、真っ先に教会の司祭様へ
電話を入れた。
直感的に、今回の事態が、自分の意志とか頑張り、お医者さんの医術等の人間の業では
どうにも及ばない事態と察したのであろう・・・。
続いて会社と4月以降の仕事関連先、お世話になった親会社の私の後任部長、実兄、小学校
の同期会の幹事、大学同期の友人へと、とりあえずの状況報告の電話をした。
皆さん半信半疑で話を聞き、早い回復をと応えてくれたが、回復という言葉に違和感があり、
何か実感が沸かない。
後で考えると、何でこんなにあちこち電話をしたのか不思議に思えたが、その時は、これらの
日頃お世話になった方々ともう2度とお会い出来なくなるのではとの、切羽詰った気持が
有ったような気がする。
とりあえず、急ぎの所へ連絡してホッとしたが、又直ぐに色々と気になってくる。
昨夜は睡眠剤を飲んだが余り良く眠れなかった。
これからは、毎日、長い長い夜が続くのだろう。
婦長さんや看護婦さん達から「何でも相談して下さい」と言いながら、これからの病院生活
について色々とアドバイスをして戴いた。
特に強く、「仕事の事は全て忘れて下さい。 将来のことも全て考えないように。
毎日の病院生活のことだけ考えて下さい。 そうでないと、患者さん自身が辛い思いをしますよ。
長く入院されると、精神的な障害を持つようになる患者さんも多いので、気をつけて下さい。」
と言われたのはショックであった。
患者の気持に気を配りながらのアドバイスではあるのだが、こればかりは「はい、分かりました。」
と言える簡単な事ではなかった。
なにしろ、唯一健全な頭が、一日中、休むことなく、これからの事を悩み続ける・・・。
朝夕の祈りが、欲張りな長いお祈りに・・・。 
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