「奇跡を体験」目次に戻る
奇跡を体験

10.装具に縛られて   手術直後から、頭、首、肩、背中一体を固定する装具をつけて寝かされ、手術翌々日からは両足の 膝から下にも、足の踵が伸びきったままにならないようにと装具をつけられた。 入院して2週間、ずっと、同一姿勢で仰向けに寝ていたうえに、麻痺の為、血の巡りが悪く、 床ずれ(褥瘡)が問題となってきていた。 装具装着後は、看護婦さん達で身体を動かしても良いこととなり、2時間毎に、看護婦さん 2人掛りで、あお向け、右向き、あお向け、左向きと姿勢を変えて貰える事になる。 ナースコール(看護婦さんを呼ぶ)のブザーは、自分で握れないので、右手に縛り付けてもらい 顎で押さえつけて、どうやら鳴らすことが出来た。 最初の頃は、痛み止めの薬を多用したので、2時間おきが気にならなかったが、痛み止めの薬を 減らすにつれて、手術の傷の痛みではなく、自分の頭、自分の身体、自分の足の重みを苦痛に 感じるようになった。   特に、頭の鉢巻部分が自分の頭の重みで痛むのには耐えられず、1時間ほどで看護婦さんを呼ぶ のもしばしばであった。 唯一、麻痺を逃れた首から上が確実に痛みを告げてくれることが、なんとも皮肉である。 痛みを感じられることに感謝するべきなのだが、やっぱり痛くて我慢が出来ない。 装具装着と共に、ベッド上でのリハビリが始まり、毎日、リハビリのセラピストの方が手足の ストレッチングをやってくれたり、手足を動かす訓練をしてくれ、毎日のこの30分が待ち遠しく てたまらない。 手術後は、明るい見込みも出て来たこともあり、気持が吹っ切れて、仕事の事も、将来の事も 思い悩む事は無くなった。 私は独断、偏見かもしれないが、リハビリによる回復は直線的なものでなく、飽和曲線だと 考えた。   即ち、時間さえ掛ければ着実に回復するものでは無く、最初の立ちあがりの勾配を急にしないと 飽和するレベルが低くなり、機能が回復しないまま固定することを恐れた。 その為、最初が大事と考え、お医者さんや看護婦さんからは、しばしば「無理をしないように」、 「やり過ぎないように」と注意されたが、我流で頑張り通した。 兎に角、今の自分の仕事はリハビリで、馬鹿になりきってリハビリし、回復レベルが見極め られるようになったら、それから、人生を再設計すれば良いと割り切った。 なにしろベッドに寝たきりでも、両手両足の20本の指を曲げたり、伸ばしたり,手首、足首 の屈伸、回転、膝の屈伸、腕、脚、腿の上げ下げ等を、一項目10秒10回づつやっても、 (実際は動かないのに気持だけは必死で動かそうとするので、)休みながらで2時間近く掛かってしまう。 朝、昼、夕と繰返すと、意外と一日が短いのである。 装具は首の骨が固定されるまでの3ヶ月間付けることとなり、それからが本格的なリハビリを することが出来るとの事であった。 未だ未だ先は長いが、毎日毎日が、何か変わりそうで楽しみだ。
「奇跡を体験」目次に戻る