コアジサシの繁殖調査

   1995年6月
   1996年5月

 コアジサシ Sterna albifrons について

オーストラリアやニュージーランドから春になると日本にやってきて繁殖し秋に帰っていく、いわゆる夏鳥で28センチくらいの大きさのカモメ科のスマートな鳥です。日本とオーストラリアの間で「国際渡り鳥条約」の指定種になっていて、環境庁のレッドデータでも希少種になっています。

頭の上が黒く、嘴が黄色、脚が橙黄色。そのほかは全身が真っ白です。尾がふたまたに分かれているのでうっかりすると真っ白いツバメを見たと思ってしまう人も居ます。でも、飛ぶときはツバメのようにスィースィーとなることはなく、必ず翼を羽ばたかせています。鰺を刺すという名前のように、海や川や池の上を飛び回って小魚を見つけるとダイビングして捉えます。

繁殖に適する場所

この鳥は川の中州などの砂利の上にじかに卵を産みますが、海岸近くの埋め立て地の砂利も営巣地として使います。卵もヒナも砂利によく似た色をしていてよほど気をつけないとわからないほどですが、カラスやネコなどに食べられることもあります。そこでコアジサシはたくさん集まって集団で営巣します(コロニーと言います)。
外敵が来ると、親鳥たちは一斉に舞い上がりキリッキリッと鋭い声を出しながら、尖った嘴で威嚇するという集団防衛で卵やヒナを守ります。コロニーの規模が小さいと、補食されてしまう率が高いので広い場所が必要という事になります。

金沢区でのコアジサシ

金沢区でも以前はたくさんのコアジサシが観察されました。ちょうど、八景島が工事中だった頃です。海の公園や野島の海で潮干狩りをする人々の頭上を飛びかっていました。平潟湾などでは、魚をくわえた雄が、雌のまわりを短い脚でヨチヨチ歩き廻り、頭を下げて魚をプレゼントする姿を何回も見ることができました。
雌が魚を受け取ってくれるとプロポーズは成功です。雄は雌の前で空を仰ぎ見るように首をぐーんと上に向かって伸ばしながら、雌のまわりをヨチヨチと歩きます。工事の関係者に伺ったところやはり、八景島の埋め立てた所にたくさんの鳥がいたそうですのでそこを営巣場所にしていたことがうかがえます。

八景島が出来上がり、砂利の広場が無くなると共に、金沢区の水辺からコアジサシの数はめっきり減り1、2羽程度になってしまいました。ところが、1992年に夏島の海の埋め立て工事が始まりました。埋め立て工事とか、造成工事というのは土が落ち着くまでしばらくの間は寝かせておくと聞いていましたのでもしかしたらコアジサシが使うかも知れないと期待していました。
すると、1995年久しぶりに海の公園で20羽程度のコアジサシがブイの上で求愛給餌しているのに気が付きました。早速、工事中の埋め立て地に飛んでいきました。予想通り工事用の囲いの向こうにたくさんのコアジサシが飛んでいたのです

繁殖地の様子
 (一面平らになっていました)

土地の所有者を探して、日本野鳥の会神奈川支部、金沢野鳥クラブのメンバーで調査の許可を戴きました。これはその時の記録です。

1995年6月の調査結果

巣があると分かっていても、うっかりすると踏みつぶしかねないほど目立たない巣なので1歩ごとに非常に神経を使いながらゆっくり歩き、巣の数・作りかけの巣の数・卵の数・ヒナの数を記録していきました。

6月17日

巣は16個、卵が26個、孵化したばかりのヒナが6羽見つかりました。
巣と巣の間の距離は近いところでは2メートル以下でした。

巣の中にある卵

 とても見つけにくくて怖かった・・・
孵化したばかりのヒナ 

 側にある白い物はヒナの糞です。

強い日射しをさける為でしょう。ヒナはちょっとした草の影とか大きめの石のつくる影などに潜る様に隠れていました。

落ちていた餌。
 すっかりひからびて干物になっていた。

6月23日

前回調べた巣はもう残っていなく、卵の殻があちこちに転がっていたので全て孵化したと考えられました。前回に比べて親鳥の私達への攻撃は激しかったのでヒナを守るためではないかと思いました。新しく8つの巣が作られていて、求愛している雄もいたので2度目の繁殖が始まっている様子でした。

2回の観察で見た限りでは、草の生えているところ、くぼんでいて雨が降ると水がたまりそうなところ、砂利が紫色に着色されているところには一つも巣がありませんでした。
巣の様子は、10センチくらいの砂利をどかした真ん中に1センチ以下の小さく白っぽい砂利を集めてあるのが一番多いタイプでしたが、中には露出した土の上にじかに卵があるもの、卵の側に申し訳程度の小さい白い砂利がある物などもありました。もしかしたら卵を抱きながら、親が少しずつ小さい砂利を集めているのではないかと考えられます。

この年は、どのように働きかけたら保護できるのかを模索している間に工事が始まってしまい、6月30日にはこの場所では1羽もコアジサシを見られなくなってしまいました。
一番子はどうにか無事に巣立ったもようですが、二番子とかまだ充分に飛べない小さいヒナを助けられなかったのでは・・・という悔いが残りました。

1996年5月26日の調査結果

前年に引き続き、コアジサシが同じ場所で繁殖を始めましたので、土地の所有者である日産自動車(株)の立ち会いの元、横須賀市博物館、日本野鳥の会神奈川支部、金沢野鳥クラブが調査を行いました。
繁殖期に入ったばかりというのにその結果は前年をはるかに上回る物でした。

卵のあった巣が190。卵が全部で359。作りかけの巣が663。
上空を乱舞している親鳥は1000羽以上もいたのです。

この年の、神奈川県内での最大の繁殖地となっていました。

そして、保護へ

日産自動車(株)に鳥の保護への協力をお願いしたり、県の自然保護課などにもお話ししたりあわただしくなりました。
そして、日産自動車さんと横須賀市の港湾局の英断で8月まで繁殖している範囲の工事をストップして下さることになりました。
そういう面では全くの素人の私にも、莫大な損失をおかけしただろうと推察されます。本当にありがたいことでした。

こうして1996年は数多くのコアジサシが無事に子育てをすることができました。今では工事が終了し同地では繁殖するはずもありませんが、どこか新しい場所を見つけてくれていることを祈っています。

その他の地域での保護活動

小田原市では1996年に「市の鳥」に指定して全市的に保護に取り組んでいます。多くのボランティアの方が川の中州で、増水時に巣が水没しないように砂利を積んで高くしたり、立ち入りを制限したり努力を続けています。


保護の難しさについて

前にも書いたことですが、知っていて保護をしたいが為の調査であっても見つけるのが難しいほど上手な保護色になっている卵とヒナなので、鳥に興味がない方や、まさかそんなところに巣があるなどと考えても居ない方にとっては全く見えないと言っても良いほどの物です。
そのために、河川敷や中州に入るオフロードの車や釣り人達が、そのつもりもなく踏みつぶし卵やヒナを殺していることが沢山あります。野良犬、野良猫などによる補食も沢山あります。
人間の楽しみや経済的な問題と、一つの種にとっての死活問題とをどのようにバランスをとって両立させていけばよいのか・・・
ここでもまた、いつも繰り返される大きな問題が生じていまです。

日本中で大きな川とか、海岸近くで大規模な造成工事を計画するときに、はじめから5月から8月までは、コアジサシのために工事を中断する予定を組むことができたらどんなに多くの鳥たちが助かることでしょう。コアジサシが繁殖する場所では、シロチドリ、コチドリなどの小さな鳥たちも繁殖しています。私はそんな、夢のようなことを考えてしまいました・・

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